わたしはネット上では一応はボカロPと名乗っているのだけれども、どことなく気後れしてしまう感が否めない。
もともとボーカロイドに興味や愛着があるというよりは、自分は歌を歌えないが歌モノの楽曲を作りたくて、その手段としてミクさんにご協力をお願いしているだけなのであって、ミクさんに上手に歌っていただくための調声技術をほとんど磨いていないためである。
じゃあ他は磨けているのか、などとはどうか言わないでいただきたい。
その申し訳ない気持ちから、わたしは彼女を、ミク、とか、ミクちゃん、といった上から目線的な、もしくは馴れ馴れしい関係的な呼び方をすることができない。
ミク様、と呼びたいくらいだが、それだとどことなくM嗜好のひとのような印象もある。初音さん、くらいが一番妥当な気もするが、ニュアンスを汲み取ってもらえず奇を衒っている残念なやつのように思われるのも口惜しい。
仕方なく、立ち位置とノーマル性のバランスをギリギリとれる、ミクさん、という表現に甘んじている。
あと、ボカロPというのはプロデューサーのことだと思うけれども、そんなおこがましい立場では断じてなく、わたしがミクさんにお願いをしてお仕事を手伝っていただいているのだから、ボカロクライアント等と名乗るのが正しいように思う。
twitterのプロフィールやなんやにもそう書こうと何度か思ったのだけれども、冷静に考えると、最低限、ここまで書いたようなことを説明しないことには初見の人には意図が通じず、ハイパーメディアクリエーターみたいな虚業を名乗る輩と思われかねないので、やむなくボカロPと名乗るしかない。苦しい状況である。
そんなことを日々悶々と悩んで過ごしているのだから、曲作りや楽器の練習がちくとも捗らなくて困っている。
ちと冒頭から脱線が度を過ぎてしまった。
ともあれわたしは作成途上の歌をミクさんに歌っていただきつつ、身近にいるミーアさんという耳の良い知人に試聴してアドバイスしていただくことが多いのだけれども、ちょいちょい「歌詞が聞き取れない」と言われることに最近気づいた。
たしかに、油断するとミクさんはすぐにむわむわっと歌ってしまわれる傾向があり、わたし自身は歌詞を打ち込んでいる身なので実はそんなに気にしていなかったのだけれども、歌である以上歌詞はハキハキ聞き取れるに越したことはない。
そこで、少しばかり実験をしてみた。
実験台はこちら
題材はこの曲にした。一応ピアプロリンクを貼るが、聴いていただく必要はまったくない。
歌中にこういう早口の部分があり、ここがターゲットだ。
「ムキムキの侍たちが 光の速さで人力車を 走らせて ガイジンたちが 腰抜かす」 という歌詞である。
ファンタジックな情景描写が光る、過去のわたしの詩の中で最高の一節と言ってよいだろう。
さて、どうだろうか。2年ほど前に作ったのだが、当時なりに滑舌のことは気にした気がするが、そう深くも考えていなかった。
街で聞いたウワサ① スキマを作るべし
YAMAHAの人は滑舌が悪かったら子音のボリュームを上げればいいって言ってるんだけど、ワシはそれは違うと思ってるんだわ。聞き取れない子音があったらその手前に音の空間をキッチリ作ってやるだけで結構解決できるの。 pic.twitter.com/0OWgw3GcTJ
— PSGOZ (@PSGOZMIKU) 2017年7月5日
まずこの話。
スキマがあることで聞き取りやすいということ自体は明らかに思われる。
40-60msというのはどれくらいのスキマなのか計算してみると、この曲(BPM=135)の場合は32分休符よりちょっと短いくらいだとわかった。
よくスタッカートの表現のMIDI入門的な教え方として、音の長さを音符の半分で入力する、と言ったりするが、たいていの曲の場合メロディには16分音符までしか登場しないので、32分相当の空白を設ければスキマを感じられる、という意味で、ざっくりこの説明が当てはまっているのかもしれない。と思った。
(実際にはスタッカートは、まさに「次の音との間にスキマを設ける」という意味だそうで、少し年代が古いクラシックだと「2分音符+スタッカート」とかが登場したりしますが、これを4分音符+4分休符で打ち込んでしまうと相当ニュアンスがずれてしまいます。という知識は一応持っている上での感想とご理解ください。)
最も確実にこれを実現しようと思えば、ボーカロイドのパラメータのダイナミクスか、もしくはDAW側のオートメーションで一音ずつ崖を作ってやればいい。
以下のブログではその方法が紹介されている。
ただ、はっきり言ってめんどくさい。ここぞという数カ所を処理するくらいならいいが、このサンプルのようなマシンガン部分に適用するのはちとしんどい。
もしかすると、こういう労力を惜しんでいるからわたしはいつまで経っても初心者なのかもしれぬが、それは今は断固として棚にあげておく。
で、他の方法としては、ベロシティによる調整が考えられる。
ベロシティはいろいろあるパラメータのうちもっとも基本的なものの一つと言われるが、意外に難しい気がしている。
下はベロシティと滑舌の関係について言及している烏賊Pさんのブログである。
VEL(ベロシティ)の使い方
VELを下げることで、子音の発音が前に長くなるので、バラードやテンポの遅い曲は少し長めにすると良いと思います。
子音が長くなるので、歌声の言葉が聴き取りにくい場合も、気持ち長めにすることで子音が聴こえやすくなり、結果として歌声がハッキリ聴こえてきます。
逆にVELを上げると、子音の発音が短くなるので、アップテンポの曲や早口の曲の滑舌を良くする働きがあります。
VELを上げ過ぎると、子音が聴き取りにくくなってくるので、実際に聴いてみて調整することをお勧めします。
つまり、上げると子音が短くなるので前の音の長さを確保できる(聴きやすくなる)一方、次の音とのスキマが縮まってしまう、ということと理解した。
実際に試してみたのだが(下のほうに参考画像あり)、確かに上げ過ぎても下げ過ぎても聴きづらかった。微調整するしかないようである。
街で聞いたウワサ② マキシマイザをかけるべし
ボーカロイドをある程度調教してから
— zunx2P ずんずん (@zunx2_dayo919) 2017年7月5日
Cubase付属のマキシマイザーをこれでもかってくらいに(フルテンでもいい)でかけてやると滑舌良くなる
これはちょっと不思議に思えた。単純に音圧が上がればオケより目立つようになるが、そういう話ではないだろう。
で、実験して波形を書き出して見比べたりもして思ったのは、音がある部分の波形がより四角い形(面が埋まっている形)になるので、無音部分とのメリハリがつくということなのかな、ということである。
先ほどのベロシティとの関係も絡めると、「1つ1つの音圧量を上げたいが、ベロシティで(横に)確保すると、一方で上げすぎのマイナス効果もあるので、マキシマイザで(縦にも)補填してやる」とまとめられるのではなかろうか。
実験結果はこちら
1つめは最初のバージョンの波形、2つめはウワサ①でベロシティをあえてMAXにしてみた波形、3つめはウワサ②でマキシマイザをかけた波形である。(わかりづらいかもしれないが、2つめの波形は3箇所ほどある無音に近い部分が少し短くて、20-30msくらいである。)
最初のバージョンのベロシティ30近辺が意外にベストな感じだったので、これは結局そのまま採用。
あと、ブライトネスやクリアネスなどのパラメータも極端に動かして実験してみたが、改善ポイントは発見できなかった。(ブライトネスは下げると明らかにもごもごになって、クリアネスは上げると単に高音がうるさくなっただけ。)
結果、「マキシマイザをかける(前述のとおり)」のほか、「アクセント=100&ディケイ=0に設定する」「EQで低域カット、第3・第5・第7倍音を少し補強」くらいを施して、到達したのがこれだ。
・・・って、あれ?!
全然変わってなくないですか?? ( ̄◇ ̄;)